【木地】荒削り/道具
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 下端定規(したばじょうぎ)

 「定規を使わないで真っすぐな線を引くことはできる?」
以前、小学生が工房見学に来た時にこう聞いてみました。「紐を張る」「紙の折り目」「水面を紙に写す」など、皆一生懸命に知恵を絞ってくれました。
 我々木の仕事をする者が正確な直線を得るため最初に用意するのが下端定規です。大工や指物師に弟子入りすると必ず作らされるものです。鉋の下端(したば)、つまり削る材料に接する面の平面度を調べるのに用いられることからこう呼ばれています。
 別名双葉定規。同じ形の2枚の板が、2ヶ所のダボではめたりはずしたり出来る様になっています。作り方は、まず2枚合わせた状態で凡その直線に削り、削った面を向かい合わせにして隙間があるかどうかを調べます。再び2枚をあわせて凸部を削る。この作業を繰り返し、2枚の隙間から光が漏れなくなれば完成です。
 この作業の最終工程には、ミクロン単位の鉋屑を出せるようにしっかり調整した鉋が必要です。しかし正確な下端定規がないうちは、完璧な鉋の調整などできるはずもありません。作りかけの下端定規でできる限り調整し、その鉋でまた定規を削るという作業を通じて、鉋と定規はお互いに精度を高めていくのです。
 下端定規を自律定規と呼んだ人がいます。JIS規格などの他人が作った基準に頼らず、自分の作業台の上で正確な直線を得る事が出来るからです。
 この手作り定規の利点は二つあります。第一に、市販の物差しよりも精度が高い。第二に、ぶつけたりして直線が狂っても、すぐに修正できることです。その応用で、スコヤ(直角定規)や留定規(45度)も自作することができます。
 自らの手で生み出す確かな直線―。これほど明快で、しかも稀有な体験を入門したての若造に味わわせてくれるのが、木工の世界なのです。

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